樅の木の園芸療法

緑の力で「活力」を養い、
五感で触れて
「楽しみ」を見つける。
自然の息吹で潤う暮らし。

あさぎりの里では、日常の生活支援の一環として、花と緑で癒しを与える「園芸療法」を用いた支援活動に取り組んでいます。このインタビューでは、2018年の開始から確実に成果を出しているその活動について、園芸療法チームと日常の生活を支える生活支援員、そして看護師が効果と想いについて語りました。

インタビューメンバー

  • あさぎりの里 主任生活支援員
    兼 園芸療法士

    森光

  • あさぎりの里 生活支援員
    兼 園芸療法士

    三橋

  • あさぎりの里 生活支援員
    兼 園芸療法士アシスタント

    松岡

  • あさぎりの里 生活支援員
    兼 園芸療法士アシスタント

    佐々木

  • さわらび学園 副施設長

    治岡

  • あさぎりの里
    副施設長

    前原

  • あさぎりの里
    主任看護師

    宮内

ガーデニングとは目的が異なる「園芸療法」。

まず、園芸療法とはどういうものか教えてください。

森光

端的にいうと、園芸活動を通して日常の生活に活力を与え、身体面や精神面でよい状態を維持することを目的としています。

園芸療法の効果は5つの癒やしに分けられるのですが、まず1つ目は「緑の環境による癒やし」です。これは自然の中に入ったり、部屋に緑を置くことで得られる心地よさです。2つ目は「植物による癒やし」。きれいな植物を見ることで、心が満たされたりウキウキする気持ちのことを表します。そして3つ目は「栽培による癒やし」。これは、植物や作物を育てることで得られる、成長過程の楽しみや食べる楽しみのことです。4つ目は「創造活動による癒やし」で、花を生けたり木の実で小物を作ったり等の、創造活動により充実感が得られます。

そしてなにより重要なのが、5つ目の「人による癒やし」です。植物を通して得られる人との出会いや、一緒に活動をする中で生まれる連帯感は、自信や意欲の回復にもつながります。

なるほど。園芸活動を通じて健康的な体や意欲の向上を目指すわけですね。ちなみに一般的なガーデニングと園芸療法の違いは何でしょうか?

森光

ガーデニングは一般的には園芸が好きな人の趣味とされていますが、特に園芸が好きというわけではなかった人も、“植物と関わることで自発的な意欲を持てるようになること”が園芸療法です。まずは“やってみたいな”、“行ってみたいな”という気持ちになってもらうことが重要です。

三橋

自然を通して“よい影響を受ける”ことが園芸療法ですよね。単に植物を育てるだけでなく、森の中でマイナスイオンを浴びたり、道端の花を愛でたり…散歩で得られる効果もいろいろあります。実際に、心地よい緑の空間では人は自然に対するポジティブな反応を示し、心が癒されて元気になることが報告されています。

森光

特に認知症の方や精神障害の方は、部屋に閉じこもってしまう傾向にあるので、そのような方に“何かしてみよう”、“外へ行ってみよう”と思ってもらうきっかけ作りでもあります。大事なのは意欲が生まれることで、その場でただ楽しむだけの作業をするのが園芸療法ではないんです。

園芸活動そのものが目的ではなく、その先の生活意欲の向上を目標とされているわけですね。

花壇作りや植物の管理、腐葉土作り、野菜作りなど内容はさまざま。

2年間の通学からはじまった園芸療法。

ところで、樅の木福祉会で園芸療法がはじまったきっかけは何ですか?

森光

私は以前からもっとみんなと一緒に取り組める活動はないか、昔から行っていたガーデニングクラブをもっと発展させることはできないかと考えていました。単発的にガーデニング作業は行ってはいたものの、みんなで継続してというのができていない状況でした。それで色々と調べていくうち、園芸療法という活動にたどり着きました。主任生活支援員の治岡に相談すると、「やって、やって!」と快く背中を押してもらえたので、普段の仕事と並行して2年間、淡路島の景観園芸学校へ通い、園芸療法士の資格を取得しました。
いまは樅の木で園芸療法として「はなハナ野菜クラブ」というクラブ活動と、あさぎりの里を花と緑でいっぱいにすることを目的とした「あさぎり委員会」という園芸活動のカリキュラムを行っています。

治岡

年に一回以上、職員は自分が興味のある研修にいくことにはなっていましたが、まさか2年間学校に通うとことになるは思いませんでした。なんだかずいぶん大きな話になったな、と。

森光

でもあの時もし背中を押してしてもらってなかったら、いまの園芸療法はなかったですね。

治岡

その時は、ガーデニングの活動もなかなか継続できていない状況があったので私も応援していたのですが、みんなすごく頑張ってくれて、いまこんな素敵な活動になっているので嬉しいですね。

あさぎりの里の敷地内を飾る色とりどりの植物の管理も。

活動の条件は、“最後まで心地よく”取り組めること。

普段はどのような流れで活動されているんですか?

治岡

まずは季節に応じてどんなことができるか、園芸療法士に年間スケジュールを立ててもらい、メンバーを決めて実施しています。いまはあさぎりの里の利用者さんが対象で、全員が月に一度は参加できるようスケジュールを組んでいます。興味がない方や活動が難しい方は、散歩へ行ったり絵を描いたり、回数は少ないですが個別にできることで対応しています。そういう方も、いずれは参加できるようにしていきたいですね。

三橋

もちろん障害も人それぞれなので、その人に応じてチーム全員で相談しながら、無理なく継続できるプログラムを組んでいます。例えば手先が器用な人は種まきや植え替えをしてもらったり、目が不自由な人は自然の中を散歩をして、最後にログハウスでコーヒーを飲んだり、無理のない範囲でできることに挑戦してもらって、誰もが“ちょっと参加してみようかな”という意欲がでるようにしています。

佐々木

アシスタントの私と松岡は、園芸療法士である森光と三橋の指示を受け、必要な材料などを集めて工作キットの準備します。以前は松ぼっくりでおひなさまを作ったのですが、ハサミを上手に使えない利用者さんもいるので、顔や冠は事前に切っておいて、あとは利用者さんがそれを貼るだけで完成できるようにしておきます。この工作キットも1年目より2年目の方が利用者さんに好評だったので、来年はさらにバージョンアップしていきたいですね。

森光

一回の活動時間が1時間半くらいなので、その時間内で作りあげられるようにプログラムは組んでいます。利用者さんには長い時間集中できない人もいますし、嫌だと思われてはいけないので、作業自体は20分程度で作れるものを条件に考えています。

松ぼっくりのおひなさまの例で言うと、最初に説明や松ぼっくりを探しに行くところから始まって、帰ってきて貼ったり色を塗ったりする作業の時間を20分としています。一番特徴の出る顔は自分で好きに書いてもらうんですが、色々な表情が見れますよ。完成したらみんなで感想を話し合って、美味しいコーヒーを飲んでもらって。あさぎりの里は生活の場なので、きちんと継続できる活動が必要です。次もまた来たくなるようなプログラムを作るのが園芸療法士の仕事ですね。

三橋

中には集団行動を苦手とする利用者さんもいるので、そういう方には無理に活動をしてもらうのではなく、その方にとっていちばん心地よい日中活動というものを考えるようにしています。例えば一つ、興味を持つキーワードを探して外に誘ってみたり。ある方は「ふわふわ」という言葉を気に入ってくれたので、ふわふわなものを一緒に探しに行きましたね。最終的には、ふわふわな芝を使って人形を作ることもできました。そうして少しずつ、五感で触れてもらうことを心がけています。

松ぼっくりで作ったひな人形。

次が待ち遠しくなる、‟非日常”の世界。

実際に園芸活動を始めてから、利用者さんの反応はどうですか?

前原

笑顔が増えましたね。最初はログハウス(活動支援準備室)でコーヒーを飲むだけの活動だったんですけど、それも職員が根気よく声をかけて外へ連れ出すところからでした。でもいまは、職員室の扉をドンドンたたいて「今日はなにするの?」と聞いてくる利用者さんもいて、楽しみながら参加されているのを感じます。

宮内

先に着替えて待ってますよね(笑)「今度はいつなの?」と聞いてきてくれるくらい楽しみにしてくれているので、活動に対しての意欲を感じています。

治岡

以前、戸外へ出るのが嫌で、課外活動でも大きな声を出してしまう利用者さんがいて、職員があの手この手で誘ってもなかなか外出できなかったんです。そこで、「コーヒーでも飲みに行く?」と、誘うとうまく何度か連れ出すことができて。その方もいまは帽子をかぶって待ってますからね。

宮内

この“はなハナ野菜クラブ”の活動を、発語障害があって「な」と呼ぶ利用者さんがいらっしゃるんですが、「な!な!な!」とずっと楽しみにしているんですよ。

治岡

その方は朝から早く行きたいと訴えてこられますね。クラブは午後からの活動なので「お昼ご飯食べてからね」と返事しても、朝ご飯の時からずっと「な!な!な!」と楽しみにしていますね。

その方は活動の中で何を一番楽しみにされてますか?

治岡

それは間違いなくコーヒーです(笑)でもそのおかげで、しっかり活動に出られるという習慣ができました。きっかけはこのログハウスでコーヒーを飲むことだったんですけど、「次はあっちいってみようか、今度はこっちいってみようか」と徐々に歩く距離が長くなったり、苗を植えるのを手伝ってみたりで、段階的に活動内容を増やすことができていますね。

松岡

コーヒーはみなさんすごく好きで、それを楽しみにこのログハウスに来てくれますね。施設の中でもやっぱりここは環境がいいみたいですね。

森光

コーヒーもインスタントではなく、ちゃんと挽いた豆を使って香りをふわーっとこの部屋に充満させて、おしゃれなカフェ空間にしてるんです。あさぎりの里の施設は毎日の生活を送る“日常の場”だけど、このログハウスは利用者さんにとっての“非日常の場”になるようにしています。他の活動の時はいつも通用口から出ていますが、このはなハナ野菜クラブのときだけは、お出かけをする特別感を感じてもらうために玄関から出てもらうよう、演出にも工夫しています。

宮内

コーヒーの香りは目の見えない方にも嗅覚の刺激になっていますね。あとこのログハウスに来るまでの道にも工夫をしていますよね。

森光

目の見えない方にはログハウスまでの道のりを足で覚えてもらえるように、桜のチップをまいて“ふわふわロード”を作って、足の感触で楽しめるようにしたりしています。それぞれの障害の特性の中で、五感をうまく活用できたらと思って取り組んでいます。

はなハナ野菜クラブの活動は特別感を感じられるように玄関から外へ。
畑に立てるネームプレートも自分たちで手作り。

非日常の場もあると生活にメリハリがでますよね。園芸活動を通して、利用者さんの生活への変化は見られましたか?

治岡

いまは活動を定着させている段階ですが、普段は集団行動を苦手とする利用者さんが、少人数の園芸活動では落ち着いて取り組んでいらっしゃる姿を見ると、この活動をきっかけに穏やかな生活環境を作っていけるのではないかと感じます。そういう小さい感覚や可能性、手ごたえみたいなものはどんどん掴めてきているように思います。

三橋

実際に、継続することで生活リズムができたり、身体を動かすことで運動能力の向上が見られる利用者さんもいます。この活動はそのきっかけになっていますね。

このログハウスが、利用者のみなさんの可能性を大きく広げていってるんですね。

三橋

私はちょうど、ここへ入職するときにこのログハウスができることを聞いてすごく驚きました。こういう活動に、ここまで力を注いでくれる福祉法人は他にないと思ったからです。

それと以前、理事長と一緒に裏山を散歩したとき、“この裏山もゆくゆくは遊歩道として活用したい”という話を聞かせてもらいました。でも実際に自然を整備するということは、労力も費用もかかって大変なことなんです。今は全体に木が成長し生い茂っていますが、昔はその裏山の手入れを理事長も自ら身体を動かして参加していたそうです。ただ自然や植物が好きだからという理由だけでなく、自身で整備することの大変さも理解した上で背中を押してもらっていると思ったら、本当にありがたいなと感じましたね。

それを聞いて、理事長が以前「苦労はしたほうがよい」とおっしゃられていたのを思い出しました。苦労を理解してもらっている上での応援ほど、心強いものはないですよね。

自然に囲まれ、気持ちのいいログハウス。実は冷暖房もしっかり完備。
園芸雑誌の写真を切り抜いてつくった色鮮やかなコラージュ作品。

樅の木の全員が楽しめる活動にしたい。

これからはどのような活動を目指していきたいですか?

三橋

ヨーロッパではこの活動はもっと身近なものとして、「グリーンケア」の呼び名で親しまれているんです。だからまず、日本でも“治療”ではなくもっと柔らかい表現で浸透させていけたらなと思います。というのも、意欲を高めることの意味は治療ではなく、日常生活の向上にあると思うからです。

森光

私たちもいまは園芸療法チームとは呼ばれていますが、くらしの一部として自然による癒やしを提供してきたいと思っています。大事なのは楽しく活動することですから、あさぎりの里の利用者さんだけでなく、樅の木福祉会にある全ての施設の利用者さんが、いろんな形で加われるようにしていきたいですね。そしていつか樅の木の敷地全体を、大きな公園のようにして、いつも生活のすぐ側にこの活動がある、そんな環境にしていくことが夢です。

すてきな夢ですね。この活動がこれからどのように発展していくのか、期待が膨らみますね。本日はお集まりいただき、ありがとうございました。