樅の木の食

食べることは、生きること。
隠し味は、おもいやり。
台所に立つ母のように。

樅の木福祉会では、利用者さんの健康を維持する日々の給食を、食材から仕入れて施設内の厨房で調理する“自前給食”にこだわっています。外部委託によって配送された調理済みの食事を提供する施設が多い中、自前給食にこだわるのには大きな理由があります。このインタビューでは、さわらび学園・ゼノの村・あさぎりの里のそれぞれの栄養士と、支援現場で利用者さんを支える支援員(現・副施設長)、そして看護師が食事についての想いを語りました。

インタビューメンバー

  • ゼノの村 主任栄養士

    中田

  • さわらび学園 主任栄養士

    戸田

  • あさぎりの里 管理栄養士

    中山

  • さわらび学園 副施設長

    治岡

  • あさぎりの里 主任看護師

    宮内

委託ではない、“自前給食”のいいところ。

樅の木が自前給食にこだわっているのは、なぜでしょうか?

中山

なんといっても、利用者さんの体調に合わせて細かく食事を変えられるからですね。例えば支援員から、おなかの調子が悪いと事前に聞いていれば、その利用者さんにはご飯をおかゆに変えて提供できます。あとは“作りたての温かい食事ってこんなに美味しいんだ”と感じてもらったり、生きるうえで欠かせない食事に興味を持ってもらえることは大きいですね。

戸田

利用者さんの目の届く距離で作るから、そういった興味は持ってもらいやすいですよね。

中田

それこそ私は、外部委託の施設も経験してきたので、自前給食のありがたさを身に染みて感じています。当時は対応したいのにできない不自由さやもどかしさをたくさん感じたので、いまは食材の切り方ひとつとっても、利用者さんに合わせて対応できるのが幸せなんです。

例えば何も問題なく食べられる方にはリンゴをくし切りで出せるけど、体調によってはすりおろしやジュース状で出したり、その日その日で細かい対応ができます。そういう意味では、利用者さんにも安心して食事を楽しんでいただけているのではないでしょうか。

支援員側から見て、このような栄養士の配慮はどう映っていますか?

治岡

もう、本当に助かってます。私たちもそうだけど、体調って日々変化するじゃないですか。身体的なことに限らず、情緒的にも波があると、食欲って左右されますからね。どうしても食べられない場合は高カロリーゼリーを多めに出してもらったりするんですけど、そういう不安定な状況でも安心・安全に食べられる食事をすぐに提供してくれるので、本当に感謝しています。

宮内

私も、利用者さんたちにとってはすごく恵まれた環境だと思います。外部の施設研修に参加しても、ここまで対応できているところは少ないように感じます。ご飯をおかゆにすることも難しいと聞きますからね。それに個別対応となると、別料金が発生するところもあるみたいです。

温かいものを温かいまま、冷たいものを冷たいまま、おいしく食べてもらうための温冷配膳車。

いのちを守る、食事への気配り。

樅の木には幅広い年齢の利用者さんがいらっしゃいますよね。子供と大人とでは、食事に関して大きな違いはあるのでしょうか?

中田

子供と大人とではやはり大きく違います。簡単に言うと、子供は成長期なのでボリュームが求められ、大人や高齢者は口当たりのよさや、かみやすさが求められます。

戸田

特に高齢者の方は、 誤嚥ごえん(食べ物が誤って気管に入ってしまうこと)の危険が伴います。一方で、子供は食に対してのこだわりが強かったり、好き嫌いによる食べ残しも多くなりがちですね。

小中学生くらいだと好き嫌いも多そうなイメージですよね。食べてもらうための工夫は何かされているんですか?

戸田

私たちからは無理強いはできないので、徐々に食べていけたら良しとしています。食べられるものを食べていただく感じですね。野菜が苦手であれば、おやつの中に分からないように刻んで入れたり、気持ちとしてはお母さんと一緒です。あとは学校で自分たちが育てた野菜を料理に使ってあげると、また普段とは違う反応をしてくれたりします。

中田

ゼノの村では嚥下えんげ(食べ物を認識してから口に運び、かんで飲み込むまでの一連の動作)がスムーズでない方も多いので、一人ひとりに合わせた対応をしています。例えばある方はミキサーにかけた食材にとろみをつけて提供して、別の方はゼリー状にして提供したり。ゼリーも固さによって飲み込み方に違いが出ますし、一歩間違えれば誤嚥性肺炎にもつながるので、支援員の方と状況の確認をしっかり行っています。利用者さんのその日の体調によっても提供の仕方は変わってくるので、支援員と厨房側が一体となっていかなければならないところです。

それは常に緊張感が伴いますね。ちなみに厨房内の仕事は全て栄養士がこなしているのでしょうか?

中田

栄養士は基本的にメニューを考える役割で、調理をするのは調理員です。他にも私たち栄養士は、調理工程や進行状況の確認、あとは実際に食事の場に立ち会い、利用者さんの状況も確認します。例えば、お箸で食べづらそうにしている方がいれば、次回からはフォークやスプーンなどをつけるよう調理員へその様子をフィードバックしていきます。

なるほど。栄養士の仕事は、単にメニューを考えるだけではないんですね。

栄養士と調理員が協力する厨房。

食べたいものが食べられる、特別な日の行事食。

他に、自前給食だからこそ実現できたことは何かありますか?

治岡

このあいだ、ケーキバイキングをしてくれましたよね?

中山

やりましたね!平成から令和に年号が変わると決まって、“何かみんなでお祝いをしよう”と施設長から提案があったんですよね。それで「みんなにケーキを買ってきてほしい」と言われたんですけど、どうせなら手作りの方がたくさん食べられるし、コストも抑えられるんじゃないかと思って、厨房から手作りケーキバイキングを提案しました。すると「それいいね!やろう!」ということになって、ショートケーキの他にプリン・ティラミス・チーズケーキ・シフォン・ロールケーキなど、全部で10種類くらいのケーキバイキングを実施しました。

すごい数ですね!大変だったんじゃないですか?

中山

当日はもう栄養士も調理員も全員で必死になって作って並べて、ハッと気付いたらもうみなさん食べ終わっていて、あっという間になくなってしまいました(笑)準備は本当に大変だったけど、でもやっぱりやってよかったなと思いました。私たちは普段、支援員から利用者さんの状況を聞いて動くことが多いので、“たまには厨房発信で何かできる事はないかな?”と考えていたところもあったんです。だから、今回こうして発案者として厨房が主体となって実現できたのは、いい経験になりました。もちろん、一緒に作ってくれた調理員も嫌な顔ひとつせず「やろうやろう!」と快く賛同してくれたから実現できたことではあるんですけどね。

それに、私たちはケーキが食べたいと思ったらいつでも食べに行ったり買いに行ったりできるけど、利用者さんにとっては簡単じゃない。私たちにとっては当たり前なことでも、そうではない利用者さんもいらっしゃるので、そういう方にはここで体験してもらいたいという思いもあるんです。それで喜んでもらえたら私たちもうれしいですよね。

なるほど。ここでは日々、「当たり前」が追求されているんですね。ところでケーキバイキングと聞くと、栄養面での偏りが心配されそうですが?

中山

確かに、一日のカロリー摂取量はオーバーしてると思います。でも、そんな日があってもよいのかなと思います。だって私たちも、“毎日の栄養バランスは完璧ですか?”と聞かれたら、そうではないですよね(笑)三食きちんと食べられる日もあれば、食べられない日もある。なのでその前後や一週間を通して、きちんとバランスが取れていればいいと考えています。

中田

前の周年行事でも、焼きそばや他にいくつかメニューがある中で、肉まんの大きさをどうするかという話があったんです。結局、せっかくの行事なので食べ応えがあるように、一番大きいサイズにしよう!ということになりました(笑)でもその代わり、夕食や次の日の食事をちょっと軽めやヘルシーなもので調整して、楽しめるときは思い切り楽しんでもらうようにしています。

戸田

私たちも、生きる上で食べることは楽しみだし、特に誕生日や行事のときなんかは、好きなものを好きなだけ食べたいと思いますよね。そうやって、日々の食事にメリハリをつけた方が、利用者さんもよろこんでくれると思うんです。それに利用者さんのご家族の方からも、「食べられるものの種類が増えた」というお声もいただいているんですよ。

中田

せっかくならその場の雰囲気を楽しんでもらいたいですからね。利用者さんの喜ぶ顔が見たいので、私たちも行事食には特に力が入ります。

中山

誕生日も、利用者さんに食べたいものをリクエストしてもらって、なるべく希望に応えられるように作っているんですよ。

どんなリクエストが多いんですか?

中山

やっぱりハンバーガーが多いですね。

中田

私はモスバーガーが好きなので、ミートソースと厚切りトマトを使った“モス風バーガー”を作ったら大好評でした。いまでは普段の定番メニューとして提供しています。自分が好きで食べたいと思うものは、みなさんにも提供してあげたいんですよね。あと喜んでもらえたものといえば、カレーのトッピングバイキングもあります。10種類のトッピングを自由に選んでもらえるようにしたら、みなさん全種類のせて山盛りになって。それ以来、私たちはそれを「全部のせカレー」と呼んでいます(笑)

なんだか楽しそうですね!食事を栄養補給という視点だけじゃなく、食べることの楽しさを感じてもらうことは、生活意欲の向上にもつながりますよね。

誕生日にはリクエストメニューが並ぶ。

“おいしい食事を提供したい”…食材へのこだわり。

私もこちらの給食をいただいたのですが、お肉の柔らかさに驚きました。あと、おみそ汁がおいしくて感動しました。やはり食材には、こだわりがあるんですか?

中田

ありがとうございます。そうですね、食材はかなりいいものを使っています。お肉は完全国産にこだわっていますし、おみそ汁の出汁もカツオ節からとり、おみそはお醤油屋さんで作られているものを使っているので、おいしさには自信があります。

宮内

本当におみそ汁おいしいよね。おみそ汁だけでご飯3杯食べられそうなくらい(笑)

職員のみなさんにも好評なんですね。でも、いい食材をたくさん使うとお金もかかると思うのですが…

中田

栄養士へは“食事は美味しさを最優先に”と言われているだけで、特にこれまでお金に関して制限されたことはないですね。もちろん、年間の食材費予算というものはありますが、樅の木ではかなりの予算を確保していて、ここまで食材にお金を使う施設は少ないのではないかと思います。あとは月に一度、栄養士ミーティングがあるのでお互いに持っている情報を共有し合っています。

私たちは品質と量、栄養面の3つをクリアしたメニューを作らなければいけないので、一人で考えるのは結構大変なんですよね。でも樅の木には栄養士が三人もいて、いろいろな知恵が集まるので助かっています。例えば、高騰食材の代わりのものを考えたり、塩こうじを使って鶏むね肉をやわらかくする方法を提案したり、あと高いお肉は少量でもうまみが全然違うので、たくさん使わなくても見劣りしないようなメニューのアイデアを出し合ったり。そうやって工夫しながら、少しでもおいしい料理を提供しています。

戸田

すぐに相談できる人が近くにいるのはありがたいですよね。樅の木全体を通しても年齢層が幅広いので、私も栄養士ミーティングで各施設のメニューを聞いて反映しています。

中山

あさぎりの里では、抑えられるところは抑えていこうと、調理員が出汁をとった後のかつお節なんかで手作りのふりかけを作ってくれているんですよ。買おうと思えば買えるものだけど、再利用できるものも大切に使っています。

治岡

あのふりかけ、利用者さんからすごく好評ですよ!

まさに三人寄れば文殊の知恵!ですね。

品質と量、栄養面の3つをクリアするために工夫はかかせない。

厨房もコミュニケーションの場。

支援員側からみて、利用者さんにとって厨房はどんな場所だと思いますか?

治岡

利用者さんにとって厨房は、完全にひとつのコミュニケーションの場になっています。誰かが毎日必ず厨房をのぞきに行って、「今、何つくってるのー?」と聞いてる姿を見ますからね。きっと、お母さんのような存在になっているんだと思います。台所のお母さんに「今日のご飯は何?」と聞くのと一緒で。それに、そういう場だからこそ聞ける利用者さんの本音もあるんです。なので、厨房職員から聞く“こんな話してた”というフィードバックは私たちにとってもすごく貴重な情報です。支援現場とはまた違う角度から利用者さんのことを見てくれているので、厨房職員は私たちにとってもありがたい存在です。

おいしいものを目の前にすると、利用者さんも気持ちが素直になるのかもしれませんね。

中山

それは、私たちもそうですものね。以前もこだわりが強く、一時期は全く食事を取らなくなってしまった利用者さんがいたんです。どんどん痩せてしまって、厨房でも対応に困ってしまって…でもあるとき、その方がふらっと厨房の受け渡し口にいらしたことがあったので、その場ですぐ食べられるものをお渡ししたら食べてくれて。その後も食事の時間ではなく受け渡し口にふらっと来たときだけ食べてくれるようになったんです。少しずつ体重も増えていって、あのときは本当にうれしかったですね。

看護師から見た樅の木の食事。

やはり「食」というのは、精神面にも直接影響してくるものなのでしょうか?

宮内

影響すると思います。食事が安定したら健康も維持できて、情緒も安定しますからね。私は看護師として病院で働いていた分、余計にここへ来てから食事の大切さを学びました。病院にいると、食べられなければすぐに点滴で対応してしまいますから。ここではみなさんごはんを食べてくださるから健康だし、病気になっても免疫力が高いから治りも早いんです。そういう“食べたくなる食事”を提供してくれている厨房には私も感謝しています。

もちろんいまに至るまでには、失敗もありましたけどね。以前、給食委員会でBMI (体格指数)と適正体重の話が上がったとき、数値管理を徹底しすぎて利用者のみなさんが痩せていってしまった時期があったんです。そのときは施設長の「数値ばかりに捕らわれなくていいんだよ」の一言で、“数値が正常だからといって、その人にとって幸せでベストな状態とは限らないんだ”と、厨房職員だけでなく支援員全員が目を覚ました瞬間でしたよね。「全員支援」という意識も、そのころから根付いてきた気がします。

治岡

数値にとらわれず“利用者の方の本当の健康とはどのようなことなのか?”全体像を見ることの大切さを学びましたね。

利用者さんにとって何が本当の幸せなのかを、食事の面からも全員で真剣に考えているんですね。

厨房と食堂が隣接し、コミュニケーションは普段から活発。

背中を押してくれる、唯一無二の法人の存在。

なぜ樅の木ではここまで食事に力を入れることができるのでしょう?

治岡

私は、いまこうして厨房職員と支援員が一体となって連携を取れるようになったのは、理事長のおかげだと思っています。以前は厨房側のカロリー計算の意図などがきちんとくみ取れなかったり、互いのコミュニケーション不足で少し距離があったんですよね。それを理事長の提案で、交流研修を行うようになってからは、それぞれの大変さが分かるようになって、連携もうまく取れるようになりました。

宮内

そういう交流研修の機会をもらえたからこそ、いまがありますよね。厨房の方が日々提供してくれていることに慣れてしまって、それが当たり前になってしまっていることがあったのですが、(例えば、利用者の方のスポーツ大会の時にお弁当を作ってもらっていたのに、帰ってきてから利用者の方と厨房の方へのお礼の挨拶を忘れてしまったり)理事長には「当たり前を当たり前と思ってはいけない」と、日々教えられています。

中山

厨房としては、先ほども話にありましたが、給食費のことでこれまで「高い」とか「もっと安くできないの?」と言われたことは一度もないんです。ケーキバイキングを提案したときも、いくらかかるか分からないことに「いいじゃない!どんどんやって!」と、背中を押してくれるような理事長は、他にはいないと思うんですよね。だから私たち厨房職員は、主体的に頑張ることができているのだと思います。いつも応援してくれる法人の存在は、唯一無二ですね。

楽しんでもらえる食事をつくり続ける。

では最後に、厨房職員としての今後の目標や思いがあれば教えてください。

中田

個人的には、外食でしか食べられないものをもっと出してあげたいなと思います。中には味付けや食材の調理方法によって、大量調理に向かないメニューもあるんです。例えば、カルボナーラパスタ。大量にソースを作ろうとすると、どうしても卵にムラができやすかったりするんです。そういう、まだ提供できていないメニューにも今後はどんどん挑戦していきたいですね。

戸田

私は、栄養士が考えてメニュー数を増やすだけでなく、調理員ともっと一緒に考えて、より充実した食事を提供していけたらと思います。すでにさわらび学園では調理員にも月に一回、メニューを提案してもらっているんですが、そうした一人ひとりが活躍できる環境を樅の木全体で目指してきたいです。

中山

私は、みなさんに楽しみにしてもらえる食事をつくり続けたいです。というのも以前、お休みをいただいて献立表を掲示するのが遅くなってしまったことがあったんです。休みの間も、「献立がない」とみなさん心待ちにしていたそうで、いざ出勤して貼りに行くと、その様子をみなさんが固唾をのんで見守っているんです(笑)それって、いつもそれだけ食事を楽しみにしてくれているということなので、そういう楽しみにしてもらえる食事をいつまでも作り続けたいなと思いますね。

樅の木福祉会の食事は、利用者さんのいのちを守りながら、生きる楽しみや活力を与えてくれる大事な源であることがよくわかりました。厨房から利用者さんへの愛情が感じられますね。これからもおいしい食事を作り続けてください。本日はありがとうございました。